JOURNAL

ぐるぐる回れる動線

2018.10.26

屋根周りのメンテナンスのために高松は牟礼の家へ。
この家はキッチンをアイランドにしてぐるりと回れるようにしたり、玄関は廊下のように通り抜けられるようにしたり、LDKに沿った濡縁から回って帰ってきたり、同じ所へ行きつくのに色々な行き方があります。
いわゆる「回れる動線」というやつです。
特に家族が多い場合、誰かがどこかで何かをしていたら違うルートで行き先にたどり着けますし、何より子供たちは動線が回れるようになっているとひたすらぐるぐると走り回ります。
牟礼の家には3歳~小4までの四人のお子さんが居るのですが、例に漏れずひたすらにぐるぐると動き回ってくれていました。
(実際には他に行き方はあるのになぜかお母さんの居るキッチン周りをやたら通り抜けたがることも多いそう)
とここまでは設計意図通りの回れる動線のお話し。
今回来訪した時にはクライアントご主人と私たちでひたすら屋根の上に居たのですが、想定外の回れる動線を意図せず設計していたことが明らかに。
想定外の回れる動線への入口1(出口1とも言う)
子供部屋南面に設けられた横長の窓。
牟礼の家、屋根への入口
想定外の回れる動線への入口2(同じく出口2とも言う)
階段を上がってすぐのファサードに面した窓。
牟礼の家、屋根への入口
想定外の回れる動線への入口3(またまた同じく出口3とも言う)
子供部屋に入る廊下どんつきの窓。
牟礼の家、屋根への入口
全て二階の窓なのですが、牟礼の家は平屋の上に子供部屋だけがポコンと乗っかった形状になっているため、二階の周囲を一回の屋根(下屋根と言います)がぐるりと囲んでいるのです。

「ぐるり」、そう、あの回れる動線のぐるりです。
子供たちは窓から屋根の上に出ては屋根の上で遊び、一人が違う窓から中に入るともう一人が追いかけて同じ窓から中に入ったり。
メンテナンスをしている僕らの周りをぐるぐると回っていたと思ったら気が付くと居なくなっていて、庭に降りて喧嘩が始まっていたり。
一瞬してすぐに今度はまた屋根の上に上がって抱き着き合ったりじゃれ合ったり。
この間はすべて裸足。
兄弟の多いこの家では家の中だけでは収まりつかない色々を充足するために外も中も一緒くたに使えるように・・・という設計意図を遥かに超えた使い方に設計者としては嬉しい完敗を喫した日でした。
設計したどこの家でも我々が見ていないだけでこういう完敗を繰り返しているといいなぁと思いました。
完敗し続けるための余白はどのように生まれたのか、それをここ数日考えています。
作り込みすぎなかったり、特定の行為に特化しすぎなかったり、特定の人間に対して特化しすぎなかったり、ということがキーワードになる気が今はしています。
あくまでも住宅は一般的な解の範囲で考えるほうが豊かな場となるのでは。
その「一般的」ってなんやねん、という問いにつながっていくのですが。

牟礼の家ではこの晩泊らせていただき、夜中まであれやこれやと飲みながら本当に楽しい時間を過ごせました。
設計させていただいた家で住まい手と飲み明かす、こんな幸せなことってありません。
終わってみれば二日間にわたり本当に素敵な小旅行となりました。

エイチ・アンドは神戸と篠山を拠点に活動する建築設計事務所です
神戸事務所:兵庫県神戸市魚崎北町5-3-16-307
丹波篠山事務所:兵庫県篠山市東吹