JOURNAL

巡る屋根

2025.12.25

私たちの自宅と事務所の間には休憩小屋があり、その屋根は私たちが育てたお米の藁で葺いた茅葺です。三年に一度、家族総出で葺き替えを行っています。
稲わら逆葺
一般的に茅葺屋根には耐久性に優れたススキが用いられることが多いのですが、丈夫で硬いススキは誰にでも扱えるものではなく専門的な技術や道具が必要です。
かつてその茅は共同で管理した茅場から採取し、地域の「結い」という共同作業で維持してきましたが、今ではその作業も難しくなり、茅葺屋根は板金屋根によって覆われるようになりました。

私たちが稲わらで屋根を葺くきっかけとなったのは、同じ兵庫県神戸市は淡河町で活動されているくさかんむり相良さんとの出会いです。
稲わら逆葺
現代において自分たちの手で屋根を葺く方法として教わったのが、稲わら葺きです。柔らかい稲わらは子供でも扱うことができ、また目の前の田んぼはそのまま茅場にもなります。

三年に一度、秋にお米を収穫した後に稲わらを休憩小屋の下に運び、屋根の古い稲わらを降ろし、新たな屋根を葺き直します。
屋根から降ろした三年物の稲わらは分解が進み、降ろすそばからポロポロと手からこぼれ落ちるほど分解が進んでいます。
これは劣化したのではなく、微生物が分解を進め、植物が吸収しやすい状態である無機窒素へと変化していっていることを表します。これを「窒素発現率が高い」というのですが、稲わらは屋根の上でこの発現率を高め、有機肥料へと熟成を進めていたこととなります。
稲わら逆葺

この作業をしていると不思議な感覚に陥ります。私たちは屋根を葺いているのか、それとも三年をかけて肥料を熟成しているのか。建築的行為なのか農的行為なのか、その境界は曖昧です。
稲わら逆葺

田んぼでお米を育て、その恵みを食卓で頂き、残った稲わらで屋根を葺く。
その屋根はやがて土へと還り、新たな恵みを育む。そしてすべての作業や喜びを家族や仲間と分かち合う。
「日本の里山の風景は水田を中心にできている。」これはH&にもお越し頂いた岐阜県立森林文化アカデミーの柳沢直先生の言葉。
米作りと屋根葺き。この身体感覚を伴う循環の中に身を置くことは、私たちの心の中に土壌を育み、そこからまた新しい建築の思想を生み出してくれます。
風景の根幹を作り、私たち自身の人間性の根幹も形成するこの営みは、私たちにとって掛け替えのないものです。
中干し

 

H& Architects 半田俊哉