JOURNAL

呼吸する床 三和土

2026.01.08

私たちが使う仕上げの一つに、三和土(たたき)があります。

土、石灰、にがり。 使うのは、この3つの自然素材だけ。 

これらを混ぜ合わせ、叩き固める。日本人が長く繋いできた土間の姿です。

三和土の面白さは、施工が終わった後も生きていることです。

主成分である石灰は、空気中の二酸化炭素を吸い込みながら、長い時間をかけて「炭酸カルシウム(石灰岩)」へと戻っていきます。 

これを気硬性と言います。水で固まる現代のセメントとは違い、空気と触れ合い、呼吸をすることで土はゆっくりと石へ還っていくのです。

だからこそ、三和土は地面と繋がっていなければなりません。 呼吸のできないコンクリートの上では、三和土は窒息してしまう(固まらない)からです。

この「呼吸する床」は、時間とともに少しずつ表情を変えます。 毎日歩いて、少し削れたとしても、それが汚れではなく味に見えるのは、私たちが無意識のうちに、そこに有機的な良さを感じているからかもしれません。

そして半分外の様な、露地に佇む感覚と似たものをもたらしてくれると考えています。

「三和土は、現代の露地(ろじ)である」と、仮定すると扉を開けこの土を踏んだ瞬間、外から切り離された静寂が訪れる。それは茶室へ向かう庭の露地と同じ役割を果たすのではないかと…

岡倉天心の「茶の本」の一節が頭に浮かびます。

「露地は、瞑想の第一段階であり、自己啓示への通路を意味していた。露地は外界との関係をたって、茶室そのもののなかで美的享楽をみたすための、新鮮な感情をよび覚ますためのものであった。この露地を踏んだことのあるものは、常緑樹の薄明にふみいり、下には乾いた松葉の散り敷くあたり、(中略)いかに俗念から高められるかを、思い返さざるを得ないであろう。身はたとえ都会のまんなかにいようとも、文明の塵埃と騒音をとおくはなれた森のなかにいるような思いがするであろう。」 (「茶の本」 より)

現代の住宅において、長いアプローチを作ることは難しいかもしれません。しかし、玄関に「土」を敷くことで、心のスイッチを切り替えることはできます。

硬いけれど、どこか柔らかい。 ひんやりとしているけれど、温かみがある。その独特の風合いは、ただそこに佇むだけで、言葉にしがたい安らぎを与えてくれます。

H&では、三和土は職人の方々と共に関わりやすいと捉えています。土を混ぜ、叩くという行為は、誰にでも開かれたプリミティブな手仕事です。自ら床を叩きしめる。そんな土との対話を体験したい方には、ワークショップのご提案もしています。  

H&Atelier 半田智子